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ダーク サイド トライアングル
「ダーク サイド トライアングル」(闇に光る三つの星)
この三作品は、詩集「せせらぎの音」より二つ、
その後に一作品をつけて、完結したものです。
「春雨の夜の鬼」
「ミスティー レッド ビースト」
「ミスティー パープル ビースト」
以上の三作品からなっています。 詩人・木村浩欣
「春雨の夜の鬼」
春の真夜中の静けさをおびて
彼は音もなく浮かび上がった
うつろな意識で
ソファにもたれかかる
私の足の爪先を
彼がまとった血塗られた記憶とオーラが
はらりとかすめた
眠りゆく意識のなかで
私の眼球は彼の眼球を探した
思考はすでに停止していたが
魂は彼への好奇心で燃え上がっていた
その会話は
くちびるをかいさずにはじめられた
名を示せ 御名を
我は 死の門を司る神
お前達の世界に名前などもたぬわ
死神とうそぶく者もあまたにおるが
我が命を知らぬ者の戯言と知れ
目的は何だ
私は恐れていなかった
その理由を考えようとしたとき
彼は応えて語りはじめた
汝の仕える神が我を呼んだ
汝は我を知り決断する時を迎えた
よく聴け
我が門は永遠なる歓喜へと通じている
この世界へと通じる門は
虚空に満ちているが
全てはお前達の世界への出口であり
入口は我が司る門 ただ一つである
我は数知れぬ死を身に受けてきた
そして その全ては
自ら招きよせたものであった
そのたびに生命への憧れが
我が内に蓄積されていった
よいか 汝もよく知るように
死とは忌むべきものだ
如何なる理由があろうとも
目的にも 手段にも してはならぬ
そもそも死とは いかなる形であろうとも
客観性の停止であり
ただそれだけのものだ
汝の主観性 真の主体は滅却をしらない
そして そこに個性は存在しえない
自らの魂の云々などと
真実を気取る者もおるが
我等は分かちがたく唯一の存在なのだ
よいか 信念を捨てろ
信じるもののために殺しあう
お前達の文明を再構築するのだ
地平線や水平線や夜空の巨大な空間の
隔たりをも超えて
無機物 有機物 といった定義さえも
我らを分かつことは出来ない
お前達の社会は自由の尊さを叫ぶ
しかし 自由とは客観性にある限り
社会として完結することは無いものだ
お前達人類のその高度に発達した脳は
何のためにあるのか
大気圏を超えるためでもなければ
ビルの中でマウスのように走るためでもない
ましてや性能の良い武器を造るためでもない
異質な存在に出会った時
「我は新しき自己をしれり」
「汝は我なり 我は汝なり」
そういう詩を紡ぐためにあるのだ
狡猾に敵を見定めるためではない
人類の一人一人に伝えよ
愛を蒸溜せよと
生きることで
愛を紡げ 愛を歌え 愛を奏でろ 愛を記せ
愛を伝えるためだけに 子孫を残せ
その為に 我が死の門をおそれるな
しかし 決してこの門をもちいてはならぬ
汝の心が
新たなる生命への憧憬に満たされるとき
我はこの門を開き
安らかに汝を招こう
しかし まだ早い
汝の神を思い出すのだ
鳥に大空の記憶を憶え
馬のたてがみに風と大地の鼓舞を受け
巨木の枝葉が風と戯れるがごとく
言葉の大海に命を預けるのだ
汝の存在はそうした目的の継続によって
自由自在に客観性を構築し
はじめて個性として誕生する
主観を自在に操る者が 客観性において
利他を体現し 社会の前進に貢献しうるのだ
よいか 大宇宙の胎内の記憶を主観に描け
そして二度とこの門に近づくな
般若の面は静かに消えていき
私の肉体は熟睡していた
窓の外の東の空が白くなり始めた
「ミスティー レッド ビースト」
満月の明け方ちかく
峠のブナの巨木の根元に
赤いけものは重たい腰をおろした
夜も昼も
深い霧に包まれたこの森に
何時 何処から そして何故
暮らすようになったのか
けものには それらの記憶が
きれいさっぱり無くなっていた
目的もなく 吐き気をおさえながら
ひたすらにこの森を歩き廻り
何時も決まって 明け方近くに
その巨木の下で眠りにつく
そういう生活を何百年と続けてきた
夜明けの
静かに鮮やかに 移りゆく
空の色を眺めながら
けものはうめくように 呟きはじめた
「どいつもこいつも亡者ばかりだ
俺の体の中に飛び込んできては
大声でうらみつらみを叫びまくる
人間だったやつ 犬だったやつ
なんだっていいけどよお
やつらの痛さ熱さったらもお
たまんねーよ
どおして俺の体でくるしむんだよ
ちくしょお
つかれたよ つかれたよ」
いつしか けものは眠っていた
ブナの巨木が涙のような朝露で
かれの肩を清めると
そこにユリの精が二人
腰掛けて世間話を始めた
「昨日ミツバチさんがいってたの憶えてる」
「そおそお 憶えてるわよ
カシオペア座からやってきて
この森でスズメバチをやってるって
人のことでしょう」
「どんな人なんでしょうね
ねぇ ブナのおじさん 知ってる」
「さあ まだみてないなー
それよりほら ご覧 御日様が
昇り始めたよ」
「あ ほんとだ さ さ
お仕事 お仕事」
二人はけものの肩から飛び降りると
厳かにそして優雅に舞いはじめた
お日様が登り続けて
空が西の端まで真っ青になったころ
風が吹いてブナの大きな枝を揺らした
枝葉についた朝露が
陽光の歓喜にきらきらと輝きながら
眠るけものと二人の舞に
雨のように降り注いだ
すると
いくつもの光がけものの体から出てきて
ブナの幹の周りに
大きな円をつくり始めた
ユリの精の舞は静かに静かにつづいていく
光りはけものの体に巣喰っていた
亡者たちの浄化された魂だった
遠慮深そうに出てきた光りたちは
大きさも 色も 様々であった
しかし ブナの幹に移り円を描くように
廻りはじめると
しだいに金色へと変化していく
ブナの巨木は清らかなエネルギーを
彼らに送り続けていた
金色の光達の円は廻る速度をあげていき
やがて光輪そのものとなる
ブナはユリの精達に静かに告げた
「ありがとう もういいよ」
二人は舞を止め 赤いけものとブナと光輪を
ほほ笑みながら眺めはじめた
ブナが太陽と風と時を読んでから
光輪に掛け声をかけた
「今だ!!!」
その瞬間
光輪はいっきに幹をのぼり
巨木のてっぺんで球体になったかと思うと
太陽めがけて一直線に
ものすごい勢いで飛んで行った
光りを見送ると
ユリの精は自分の花に帰っていき
眠り続けるけものの顏からは
苦悶の表情が消えていた
それからふた時ほど過ぎたころ
老婆が孫をつれてけものに花束を供えた
しかし老婆と孫がみるものは けものではなく
小さな古い 石彫りの道祖神であった
「ミスティー パープル ビースト」
七本の角にからまる風に
まだ罪を知らない女たちの
吐息をあつめている
六本の牙にしたたる
血のにじむ唾液
四本のタールのついた
蹄の足でぴくりとも動かず
虹色のタテガミは
2メートルの鉤型の
尻尾の先端まで連なる
黒がかった紫色の胸毛は
アスファルトをこすり
黄色いプラスチックのような
眼孔はどこにも
焦点を合わせることが無い
私達のあらゆる希望は
彼の脇腹を通り
横隔膜に集約され屈折する
彼には生きた記憶が無い
なぜなら死んだことがないからだ
聖母マリアの自慰を味わい
ブッタの悟りにのって
球体のエクスタシーを呑む
文明に刻まれたあらゆる意味を
彼は呼吸のなかで塵にかえる
私達はいつの時代も
彼に出会わなければ
未来を築けないのだが
彼を記憶に留めようとはしない
七本の角に女達の吐息がからむと
黄色い瞳から紫色の涙がこぼれる
私達は明日も
白い緊張の弦が断ち切れるまで
恐怖のまなざしで彼をみつめて
ついには
盲目になる事こそ
勝利だと定義し
未来永劫だれ一人として
彼に近づけないように
あくまでも客観性のなかに
文明を構築する
七本の角に女達の吐息がからむと
黄色い瞳から紫色の涙がこぼれる
白い武器にふちどられた正義を
あらゆる手段を尽くして
守護者と定めても
生命は必ずそれをくつがえす
七本の角に女達の吐息がからむと
黄色い瞳から紫色の涙がこぼれる
安眠できる密室など
築けるはずもなく
真の他者を受け入れる
大地が無いならば
宇宙に広がるのは自由ではなく
輪廻の切断であり
痛みの喪失であり
自己の忘却なのだ
私達はその虚栄心の為ならば
自性を失っても構わないと
語り合っているのだ
七本の角に女達の吐息がからむと
黄色い瞳から紫色の涙がこぼれる
少年達の狭窄された希望が
彼の影を踏む
どんなに汚れた風も
彼のタテガミを
なびかせる事はないのだが
世界中のレクイエムに
その虹色は
鮮やかさを新たにする
一万年の文明が
たった百年で
崩れ去ったとしても
彼の前では
何も始まりはしない
何も終わりはしない
七本の角に女達の吐息がからむと
黄色い瞳から紫色の涙がこぼれる
ありとしあらゆる意欲が
彼に盲目であるかぎり
私達のピラミッドが
完成することはありはしない
「ダーク サイド トライアングル」
(闇に光る三つの星)
完結
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